発泡スチロール振動体平面スピーカー

概要

紙製のコーンは作るのはそんなに難しくなさそうですが、分割振動の排除を期待して、発泡スチロールを切り出して振動体にした平面スピーカーを作りました。 大沢さん、田村さん蝦名さんからいろいろ教えていただきました。

磁気回路は、大沢さんから磁石を譲っていただいて、反発磁気回路を使用して自作しています。 この反発磁気回路は、大沢さんから教えていただいた優れものです。

また、スピーカー箱は荒木さんがアメリカの雑誌から見つけてきたボッフル箱とし、吉田さんに加工をいろいろと手伝っていただきました。

スピーカー台も、砂を制振材とした三点スパイク支持のものを自作しました。

スピーカーユニット

スピーカーの原理

反発磁気回路を説明する前に、スピーカーの原理を説明します。

銅線に垂直に磁界を設け、電流を流すと、銅線と磁界からなる面に垂直な方向に力が働きます。 これは、いわゆるフレミングの法則です。

ここで、銅線をコイル状に巻き、中央から外側への磁界を設け、電流を流すと、コイルの面と垂直に力が働きます。

このコイルにスピーカーのコーン紙を取り付けると、アンプから供給される電流に応じてコーン紙が動き、音となります。 この場合、コイルはボイスコイルと呼ばれ、通常はボビンという紙筒に接着され、ボビンにコーン紙が取り付けられています。

磁界は、ボイスコイルの動く範囲で、十分に強力で均一であることが音質のために重要となります。

反発磁気回路とは

普通のスピーカーは、ドーナツ型のフェライト磁石の上下に軟鉄のヨーク、センターポール、プレートを取り付けて均一な磁界を作り、そこにボイスコイルを置いて、アンプからの電流に応じた力によってボビンの先に取り付けたコーン紙を動かして音にしています。

ただし、この形式ではなかなか均一な磁界が作れず、音が濁る原因となります。

反発磁気回路は、互いに反発する向きに磁石を接近させ、その周囲に発生した磁界のうち均一な部分を使用します。 きれいな均一の磁界が得られ、磁石さえあれば作成も簡単ですが、磁力が弱いのが欠点となります。

今回は、大沢さんからφ25mm×厚さ15mm、φ6.5mmのボルト穴付きのリング型ネオジウム磁石を譲っていただいて作成しました。

ボイスコイルの作成

ボイスコイル径の円筒物を芯にして、ボイスコイルを巻きます。 芯には、あとで抜き取りやすいよう、コンビニ袋を切り取って帯状に巻いておきます。 今回は、直径30mmのコンデンサを芯にして巻きました。 クラフト紙(厚手の封筒)を長さ50mm、幅はボビンの外周より1mm程度短くして芯に巻き、マスキングテープで留めておきます。 1層巻くたびに、高周波ワニスを塗って固めます。

ボイスコイルの直流抵抗の2割増くらいが、スピーカーのインピーダンスとなるようです。 8Ωのインピーダンスのスピーカーにしたい場合は、直流抵抗が6〜7Ωくらいの直流抵抗となるコイルを巻くことになります。 今回は、直流抵抗が10Ω程度となるように巻きました。

以下は、私が何回か巻いてみた結果を元に算出できるようにした計算フォームです。 線径0.12mm、ボイスコイル径30mm、4層巻きとして、約10Ωとなるよう算出すると、巻き幅は2mmとなります。

ボイスコイルのDCR算出
ボイスコイル直径(mm)
線の直径(mm)
巻き幅(mm)
折り返し層数

(注)上の画像はこのスピーカーのものではありません。

発泡スチロールの切り出し

(1) 方眼紙(ボール紙)を外径200mm、内径30mmのドーナツ型に切り出した物を2枚用意し、50mm厚の発泡スチロールの裏表に貼ります。 貼付けには、3Mのスプレーのり77を使用しました。

そして、ニクロム線カッターをボール紙に沿わせて切り出します。 これで、中心に穴の空いた円筒となります。 方眼紙は、切り出したあとは剥がします。

(2) 上部に直径45mmの円形の方眼紙を、下側の周囲に幅3mmの方眼紙を貼付けます。 そして、ボール紙に沿ってニクロム線カッターで切り出します。 これで、振動体は出来上がりです。

(3) ボビンと振動体が前面から1cm程度だけ接触するよう、テーパーを付けます。

(4) また、中央の穴を塞ぐために、直径30mm、厚さ10mmの円筒を同様の手段で切り出します。

(5) ボビンと(4)を、振動体に接着します。 接着剤はスーパーXを使用しました。

振動体の加工

表面に和紙を貼ります。 障子貼り用のでんぷん糊を水で薄く溶いて筆で振動体の表面をびしょびしょに濡らし、大きめに切った雁皮紙を載せてシワにならないように貼付けます。 糊は薄くても、十分に貼り付きます。 乾いてから、はみ出した和紙を切り取ります。 これは、表面が発泡スチロールのままだと高音域が神経質な発泡スチロールの音がしてしまうので、和紙を貼って和紙の音を出すのが狙いです。 田村さんによると、表面の素材の音がするそうです。 今回は、なるべく軽くて硬い和紙ということで、雁皮紙にしました。 また、値段が安かったので機械漉きの雁皮紙にしましたが、手漉きのほうが音が良いかもしれません。

背面も、発泡スチロールの神経質な音を避けるために、柿渋液を塗って固くします。 ただし、そのままでは柿渋液を弾いてしまうので、下地としてでんぷん糊を1回塗っておきます。

エッジの作成

今回は、自動車の洗車用の水拭きクロスを使用しました。 セーム革や手揉み和紙で作ることも出来ますが、方向性がないこと、擦れても嫌な音がしないこと、空気が漏れないことから採用しました。 実際は、近所のオートバックスで安価に入手できるからですが。

エッジは、下図の黄色部分を切り取って使用します。エッジ外周の直径をD1、エッジ内周(=振動体の外周)の直径をD2とすると、以下の式となります。

今回は、D1=240mm、D2=200mm、r=30mmとしたので、R1=180mm、R2=150mm、θ=240°となります。 エッジの材料の有効利用のために、60°を4枚としました。 実際には、現物合わせで調整できるよう、60°より少し余分に切り出しておきます。

フレーム

15mm厚のラワン合板にM8の長ネジを100mmに切断して、爪付き鬼目ナットとナットで固定します。 なお、爪付き鬼目ナットは厚み分だけ合板を掘って、表面が平らになるようにしておきます。 それに3mm厚のシナ合板を貼付けて見栄えを良くします。

エッジの接着

エッジと振動体、フレームとの接着は、紙用の両面テープを使用しました。 臨機応変にはさみでエッジの余分をカットしながら、均一に、隙間が出来ないように貼ります。

ダンパ

ダンパは、振動板の位置の保持と、ボイスコイルからの力に対する復元力を与えるためのものです。 普通の市販スピーカーユニットは波形ダンパを使用していますが、今回は大沢さんに教えていただいた糸ダンパを使用しました。 糸ダンパの張りを強くしないことでフラフラなダンパとなり、小音量でのレスポンスが良くなるため細かい音が出るようになります。

M3×50mmのネジを6本たてて、糸を三角形に張り、振動体を固定します。 糸を張る高さを調整して、振動体に振れるか触れないかという状態で固定することがコツです。 糸はアジアン組紐という飾り糸をユザワヤで購入しました。また、接着にはスーパーXを使用しました。 この糸は伸びてしまうので、手であらかじめ強く伸ばしきっておきます。

磁石の取り付け

磁石は反発する向きに真鍮のボルト・平ワッシャー、ナットで保持用の木材に固定します。 鉄などの磁性体のボルトやナットを使用すると、磁界が乱れるかもしれません。

磁石の間隔は5mm程度とします。 間隔は広い方が磁界は均一になりますが、磁力が弱くなってしまいます。 いろいろ試すと面白いかもしれません。

磁石の中央にコイルがあるよう、保持用の木材をナットで固定します。

ボイスコイルの両端からの線を、スピーカー用の端子にハンダ付けします。 端子は、今回は試作なのでラグ板を使用しました。 線は、音のビビリの原因となるので、振動体やダンパ糸等に触れないようにします。

性能

鈴木さんに測定していただきました。 50Hz〜16kHzまで、なかなか良好な特製とのことです。 150Hzあたりに落ち込みがあったr、50Hz以下がだら下がりになっていたりしますが、そこそこいい感じでしょうか。

スピーカー箱

ボッフル箱

ボッフル箱は、ハートレーという海外のスピーカー会社がかなり昔に開発した物で、荒木さんがアメリカのオーディオ紙の記事で見つけて、吉田さんや田村さんと試作をしていたので、私も便乗して作ってみました。 スピーカー箱の後面を開放し、同心円状に穴をあけたフェルトを数枚、間隔をあけて配置して行く形式です。難しい理論は良く分かりませんが、スピーカー後方からの音をピストルのサイレンサーのような構造で効率よく吸収することが目的のようです。

今回は、600mm×450mm×450mmのサイズとし、12mmのサブロク合板1.5枚で作りました。フェルトは、ホームセンターで床材用に売られているニードルフェルトです。

スピーカー台

スピーカースタンドも自作しました。 雨樋用の塩ビパイプ3本を3角形になるようSPF材とL字アングルで固定し、中に砂を詰め、SPFの角材を突き刺しています。この砂で、制振効果を期待しています。また、SPFの角材には先を尖らせたチーク材を取り付けてあり、3点スパイクでスピーカーを保持することでがたつきを無くしています。SPFの突き刺し深さを調整することで、多少の高さ調整も可能です。床との接触面は、畳に置いているので雨樋キャップの丸い面をそのまま使っています。

さいごに

反発磁気回路を使用したスピーカーは、多少の誤差や歪みでも音がビリ付かないので、かなり簡単に製作できてお勧めです。 スピーカーユニットの自作には手を出していない人が多いようですが、小学生の工作レベルで可能ですので、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。