CDプレーヤー 2号機

はじめに

CDプレーヤーの2号機を製作しました。

前回は試作ということもあり蛇の目基板とディスクリート部品を使用したため、配線量が非常に多く再現性も高いとはいえなかったのですが、今回はプリント基板を起こしたこととCPLDを使用したことでコンパクトに仕上げました。

また、前作はシャーシに木材を使用しましたが、今回はアルミとオレンジ色のアクリルを使用してシャープな感じにしました。

コンセプト

このCDプレーヤーのコンセプトについて、いままで私のホームページでばらばらに書いてきましたが、ここでまとめて記述します。

今回の製作では、44.1kHzデータが収録された音楽CDを再生するための単体CDプレーヤーを目的とします。 よって、外部からのS/PDIF入力を受け付ける、いわゆる単体DACとしての機能は搭載しません。

この単体CDプレーヤーとしての機能を実現するために、以下のコンセプトで構成しています。

FIFOバッファによるジッタ吸収

目指したことは、音質に悪影響を及ぼすと言われている「クロックのジッタ成分」の排除です。 一般に、これらの目的でPLLとリクロックという2つの手法がとられていますが、今回はそれらを使用せず別のアプローチとしました。

DAIによるS/PDIFからのビットクロックやワードクロックの抽出には、DAIに内蔵されたPLLが使用されます。 ただし、PLLでは完全に入力クロックの変動を吸収できるわけではなく低い周波数の変動には追従してしまいますし、DAI内蔵のPLLでは品質はあまり良くなさそうです。セカンドPLLなどという手法もありますが、時定数をどれくらいに設定するかという問題は奥が深く難しいです。

それとは別に、リクロックといわれるフリップフロップでビットクロックやワードクロックを打ち直す手法があります。 ただし、ビットクロックに同期したクロック (44.1kHz系での768fsである33.8688MHzなど) で打ち直した場合、DAIの出力はDAI内蔵のPLLで生成したクロックに同期していて周波数は一致しても位相は不定のため、ビットクロックやワードクロックとフリップフロップの入力クロックの立ち上がりが非常に近い場合にメタステーブルとなる可能性があり、望ましいとは言えません。 また、フリップフロップへの入力クロックとして50MHzなどの非同期のクロックを使用する手法もあり、これによって生じる非同期のジッタ成分は音質には影響しないという意見もあるようですが、今ひとつ納得できません。

そこで、今回は非同期FIFOバッファを用いてジッタ成分を排除します。FIFOバッファの読み出しクロックは高精度の水晶発振器によるクロックを使用し、DACに出力するビットクロック、ワードクロックもこの水晶発振器のクロックを分周して生成します。これにより、水晶発振器と分周回路で発生するジッタ成分のみが問題となり、PLLで生成されたジッタ成分は排除できます。ただし、FIFOバッファの読み出しクロックと書き込みクロックの中心周波数は一致している必要があるため、水晶発振器のクロックをCDトランスポートに入力することで一致させます。そのため、外部入力を受け付けるDACとしては使用できません。

DAC

DACの教科書を見ると、R=2Rラダー型DACが最初のほうに出てきます。 当初は勉強のためにこれをディスクリートで組んでみたのですが、特に不満の無い普通の音がします。 よくよく聴いてみると、派手さは無いもののとても素直な音で、これで不自由しないのでそのまま使っています。 この方式では22.05kHz以上の周波数で盛大にノイズ(折り返しノイズ)が出るはずで、教科書ではローパスフィルタで遮断するよう書かれていますが、私のシステムでは無帰還の真空管アンプでしかも20cmフルレンジのスピーカーで使用するため問題にはならないと判断して、そのまま出しています。 出力も1.7Vp-p出るため、OPアンプ等を用いたバッファも付けていません。

ATAPI CD-ROMドライブコントローラ

安価で簡単に入手できて、前述のクロックを外部から供給可能なCDトランスポートとして、PC用のCD-ROMドライブを使用します。 外部からのクロック入力も、改造することで容易に対応できます。 これらは音質的にはお世辞にも良いと言えませんが、FIFOバッファでジッタ吸収をすることで実用になるはずです。

ただし、CD-ROMドライブには取り出しボタンと再生・一曲進めるボタンくらいしか付いておらず、再生中の曲数表示もされません。 PCから操作しても良いですが、PCのファンの騒音や操作性を考えると却下です。 そこで、CDプレーヤーとしての最低限の操作を提供するコントローラを製作しました。 再生・停止・一曲進める/戻す・早送り/巻き戻しの機能と、曲数表示をする液晶パネルを搭載しました。

構成

以下の部品からなっています。

DAI & FIFOバッファ基板

DAIには、東芝のTC9245Nを使用します。秋月電子で700円と安価に購入できます。

FIFOバッファ機能は、デュアルポートRAMを使えばスマートに実現できますが、今回は数十バイトもあれば十分なので、CPLD (Xilinx XC9572) と1チップマイコンのAVR(ATMEL AT90S8515)を使用しました。 XC9572は千石電商で600円、AT90S8515は秋月電子で700円と安価です。 FIFOバッファメモリはAT90S8515の内蔵SRAM 512バイトのうちの256バイトを使用します。

水晶発振器は、100ppm精度ととくに良くはないですが、CITIZENのCMX-309HWCを使用しました。 33.8688MHz品で、Digi-keyで200円ちょっとでした。

出力は、DAC用に384fsクロック(16.9344MHz)、ビットクロック(32fs、1.4112MHz)、ワードクロック(44.1kHz)、データ(16bit後詰め)を出力します。 また、CD-ROMドライブ用のクロックとして、33.8688MHzのクロックを出力します。 これらはXC9572で生成しますが、XC9572がTTLレベル出力のため、74HCT541でCMOSレベルに変換します。 また、CD-ROMドライブ用クロックは、ダンピング抵抗として150Ωをシリーズに挿入しています。

回路図

CPLDデータ

AVRデータ

DAC基板

R=2Rラダー型DACを、1kΩと2kΩの抵抗で構成しています。また、I/V変換に1kΩの抵抗を使用しました。 当初はI/V変換の抵抗として2kΩの抵抗を使用するつもりでしたが、手持ちの部品の関係で1kΩにしました。 抵抗はタイヨーム (@20円)、出力のカップリングコンデンサはASC 0.1uFを使用しています。

ロジックICとして、74HC14、74HC164、74HC574を使用しています。

また、DAIやCD-ROMドライブからの電源ノイズから分離するために、カプラICを使用しました。 アナログデバイセズのADuM1300BRWです。Digi-keyで@550円で購入しました。

回路図

ATAPI CD-ROMドライブコントローラ基板

ATAPI CD-ROMドライブコントローラキットで、1チップマイコン AVR (ATMEL AT90S8515)で構成しています。

表示パネル

ノリタケ伊勢電子株式会社製VFDパネル (CU16025ECPB-W6J)です。

CD-ROMドライブ

MAGICO DVM-T12です。DVD-ROMドライブですが、DVD再生機能は使用せずCD-ROMドライブとして使用します。

電源

DAC以外は、秋月電子で800円で購入したスイッチング電源(+5V、+12V)です。 DAC基板には、スイッチング電源の+12VをTL431で+5Vに落として、4700uF×2個のパスコンを介して供給しています。

シャーシ

アルミの板材を折り曲げたシャーシに、フロントパネルとサイドウッドを取りつけました。 フロントパネルは0.5mmのヘアライン仕上げのアルミ板と2mm厚のオレンジ透明のアクリル板で、間に文字をインクジェットプリンタで印刷したOHPシートを挟んでいます。

CD-ROMドライブのマウントは、衝撃吸収樹脂(グミのような素材)をで浮かせて取り付けています。

CDトレイの出入り口は開閉式です。 見栄えのためもありますが、せっかく浮かせてマウントしたCD-ROMドライブの振動がフロントパネルに伝わらないようにするためです。

サイズは、幅270mm、奥行き225mm、高さ90mmです。

音質

一号機と比べていませんが、すこし素直さに欠けるかもしれません。 DACに使用したカーボン抵抗(タイヨーム)のためか、カップリングコンデンサ(ASC)のためかもしれません。 ちなみに、一号機ではそれぞれ秋月の100本100円の抵抗と、日米商事の電解コンデンサ(16V100uF)を使用しています。

さいごに

プリント基板化とCPLDの使用で、製作はかなり容易になりました。 なお、以下の業者、ツールを使用しました。


2004/5/8